英語の「分裂文(cleft sentence)」は、1つの文をあえて2つの節に「分裂(split)」させることで、伝えたい情報の一部分を強調する構文です。日本語には「〜のは、…だ」という強調構文(例:「彼が壊したのは、この花瓶だ」)がありますが、英語の分裂文はこれと発想が非常に似ています。この対応関係を理解すると、分裂文は一気に習得しやすくなります。
英語は日本語と違って語順や助詞で情報の重みを自由に調整できません。英語で「何を一番伝えたいか」を明確にするには、①強く発音する(音声的強調)、②語順を変える、③ It is 〜 that … や What 〜 is … のような専用構文を使う、という方法が必要です。分裂文は3つ目の「専用構文による強調」にあたり、英語ネイティブが日常会話・ビジネス文書・アカデミックライティングのすべてで頻繁に使う、非常に実用性の高い文法項目です。
分裂文の基本構造と種類一覧(形・公式)
分裂文には主に次の3種類があります。日本の学校英文法や大学受験参考書では「強調構文」という名前で①の it-cleft が最も広く扱われますが、実際の英語運用では②の wh-cleft(what節を使う構文)も非常によく使われます。
| 種類 | 通称 | 基本の形(公式) |
|---|---|---|
| ① It-cleft | It強調構文 | It is/was + 強調したい要素 + that(who)+ 残りの部分 |
| ② Wh-cleft | What構文・疑似分裂文 | What + 主語 + 動詞 ~ + is/was + 強調したい要素 |
| ③ Reversed wh-cleft | 逆疑似分裂文 | 強調したい要素 + is/was + what + 主語 + 動詞 ~ |
① It-cleft(It強調構文)の形
日本の参考書では「It is ... that ~の強調構文」として紹介されるものです。
| 元の文 | 分裂文(It-cleft) |
|---|---|
| Tom broke the window yesterday. | It was Tom that broke the window yesterday. |
| Tom broke the window yesterday. | It was the window that Tom broke yesterday. |
| Tom broke the window yesterday. | It was yesterday that Tom broke the window. |
公式:
It + is/was + [強調したい語句] + that(人の場合は who も可)+ 残りの文
訳:
- Tom が昨日その窓を割った。(普通の文)
- 窓を割ったのは、他でもない Tom だった。(It was Tom that broke the window yesterday.)
- Tom が昨日割ったのは、まさにその窓だった。(It was the window that Tom broke yesterday.)
- Tom がその窓を割ったのは、まさに昨日だった。(It was yesterday that Tom broke the window.)
ポイント:it は形式主語ではなく「強調のit」と呼ばれ、それ自体に意味はありません。that 以下は関係詞節のような形をしていますが、これは関係代名詞節ではなく分裂文特有の構造です。
② Wh-cleft(What構文)の形
| 元の文 | 分裂文(Wh-cleft) |
|---|---|
| I need money. | What I need is money. |
| She wants to travel abroad. | What she wants is to travel abroad. |
| This machine saves time. | What this machine does is save time. |
公式:
What + 主語 + 動詞(〜する部分)+ is/was + [強調したい語句]
訳:
- 私が必要としているのは、お金だ。(What I need is money.)
- 彼女が望んでいるのは、海外旅行をすることだ。(What she wants is to travel abroad.)
- この機械がすることは、時間の節約だ。(What this machine does is save time.)
③ Reversed Wh-cleft(逆パターン)の形
what節を後ろに置く倒置形です。
[強調したい語句] + is/was + what + 主語 + 動詞 ~
例:Money is what I need.(お金こそ、私が必要としているものだ。)
It-cleft(It is ... that ~)の主な用法
- 主語を強調する:It was Ken that called you last night.(昨夜あなたに電話をしたのは、Ken だった。)
- 目的語を強調する:It was this book that changed my life.(私の人生を変えたのは、この本だった。)
- 時を表す副詞(句)を強調する:It wasn't until 2020 that I started learning English.(私が英語の勉強を始めたのは、2020年になってからのことだった。)
- 場所を表す副詞(句)を強調する:It was in Kyoto that we first met.(私たちが初めて出会ったのは、京都でだった。)
- 人を強調するときの who:It is you who are responsible for this.(これに対して責任があるのは、あなただ。)※ that も使用可。
- 否定語との組み合わせで強い否定を作る:It was not until he apologized that she forgave him.(彼が謝るまで、彼女は彼を許さなかった。)
Wh-cleft(What構文)の主な用法
- 主語の位置に置いて「〜すること/もの」を強調:What surprised me was his honesty.(私を驚かせたのは、彼の誠実さだった。)
- 目的語部分を強調:What I want to say is this.(私が言いたいのは、これだ。)
- 動作・行為そのものを強調する(do構文):What he did was solve the problem immediately.(彼がしたことは、すぐに問題を解決することだった。)
- 提案・意見をやわらかく伝える:What I would suggest is waiting until tomorrow.(私が提案したいのは、明日まで待つことです。)
- 重要度・必要性を強調する:What matters most is your effort.(最も大切なのは、あなたの努力だ。)
it-cleft と wh-cleft の違い・使い分け比較表
日本人学習者が混同しやすい2つの分裂文の違いを整理します。
| 比較項目 | It-cleft(It is ... that ~) | Wh-cleft(What ... is ~) |
|---|---|---|
| 強調できる要素 | 主語・目的語・副詞(句)など幅広い | 基本的に名詞・名詞節(do の場合は動作) |
| 文頭の形 | It is/was で始まる | What + 主語 + 動詞 で始まる |
| ニュアンス | 「他ではなく、まさに〜だ」と対比的に強調 | 「〜というものは…だ」と定義的・説明的に強調 |
| 話し言葉での頻度 | フォーマル・ニュース・論説文でも多用 | 会話・プレゼンでも非常に多用 |
| 動詞の強調 | 直接動詞句を強調するのは不自然 | What ... do is ~ の形で動詞(動作)を強調できる |
学習のポイント:迷ったときは「対比して『これだ!』と指差す感じ」なら it-cleft、「これは〜というものです」と定義するように話す感じなら wh-cleft、と考えると選びやすくなります。
通常の強調(副詞・very)との違い
分裂文以外にも英語には強調の方法があります。混同しないよう整理しておきましょう。
| 強調の方法 | 例文 | ニュアンス |
|---|---|---|
| 強調構文(cleft) | It was Mike that fixed the car. | 「他の誰でもなく Mike だ」と対比的に強調 |
| do/does/did の強調用法 | I did call you.(確かに電話した。) | 動詞の事実性を強調 |
| very / really などの副詞 | This is a very important issue. | 程度を強調するだけで対比のニュアンスは弱い |
| 倒置による強調 | Never have I seen such a thing. | 否定語などを文頭に出して強調 |
日本人学習者が間違えやすいポイント
| ❌ 誤り | ⭕ 正しい形 | なぜ間違いなのか |
|---|---|---|
| It is Tom who broke the window that yesterday. | It was Tom who/that broke the window yesterday. | that と who を二重に使わない。人を指す場合は that か who のどちらか一方だけでよい。 |
| It is I that broke the window.(不自然ではないが日常会話ではやや硬い) | It's me that broke the window.(口語) / It was I who broke the window.(フォーマル) | 口語では me、フォーマル・書き言葉では I が好まれる。日本語の「私が」を直訳して常に I にしない。 |
| What I want is to going shopping. | What I want is to go shopping. | be動詞の後ろに来る補語部分も通常の英文法規則(to不定詞・動名詞)に従う。分裂文だからといって特別な活用にはならない。 |
| It is because I was tired that I slept early.(becauseを使いたがる癖) | 実際はこれで文法的には正しいが、It was because I was tired that I slept early. のように時制を is/was で正確に一致させる必要がある | 日本語の「〜だから…なのは」を直訳しようとして時制(is/was)を元の文と合わせ忘れるミスが多い。 |
| It is money what I need. | What I need is money. / It is money that I need. | it-cleft では that を使い、what は使わない。what を使うのは wh-cleft のときだけ。2つの型を混ぜてはいけない。 |
| Who broke the window was Tom.(wh-cleftのつもりでwhoを使ってしまう) | The one who broke the window was Tom. または It was Tom who broke the window. | wh-cleft で人を主語にする場合、単独の who では始められない。the person who / the one who などの形にするか、it-cleft を使う。 |
注意(和製英語・直訳の落とし穴):日本語の「〜のは、実は…なんです」を英語にするとき、多くの日本人学習者は The thing is や Actually だけで済ませがちですが、より正確に「対比して強調したい」場合は分裂文を使うと英語らしく、かつ意味が明確になります。逆に、何でもかんでも It is ... that を使うと文章がくどくなるため、本当に対比・強調したい情報にだけ使うのがネイティブの感覚です。
実践的な自然な例文(日常会話での使用例)
-
It was my sister who suggested this restaurant.
(このレストランを提案したのは、私の姉[妹]だった。) -
What surprised everyone was how calm she stayed during the interview.
(誰もが驚いたのは、彼女が面接中ずっと冷静だったことだ。) -
It wasn't the price that bothered me — it was the poor customer service.
(私が気になったのは値段ではなく、質の悪いカスタマーサービスだった。) -
What we need right now is more time, not more money.
(私たちに今必要なのは、お金ではなくもっと時間だ。) -
It was in this very room that the treaty was signed.
(その条約が調印されたのは、まさにこの部屋だった。) -
What he really meant was that he didn't trust the plan.
(彼が本当に言いたかったのは、その計画を信用していないということだった。) -
It's not that I don't like the idea — it's that I don't have the budget for it.
(そのアイデアが嫌いなわけではなく、そのための予算がないだけなんだ。) -
What made the trip memorable was the people we met along the way.
(その旅を忘れられないものにしたのは、道中で出会った人々だった。)
よくある質問(FAQ)でおさらい
Q. it-cleft の that は省略できますか?
A. 強調したい要素が目的語の場合、口語ではしばしば省略されます。例:It was this book (that) I read last summer.(口語ではthatを落とすことがある)ただし主語を強調する文では省略しにくいので注意が必要です。
Q. It is ... that の後ろは必ず現在形ですか?
A. いいえ。It is(現在)/It was(過去)は「強調している時点」を表すだけで、that以下の時制は元の文の時制をそのまま保持します。時制を混同しないことが重要です。
Q. 分裂文はフォーマルな場面だけで使いますか?
A. いいえ。ニュース記事や論文だけでなく、日常会話やビジネスメールでも非常によく使われます。特に「誤解を防ぎたいとき」「相手の思い込みを訂正したいとき」に自然に使われる表現です。
まとめ:分裂文(Cleft Sentences)の核心ルール
- 分裂文は1つの文を2つの節に分けることで、伝えたい情報を際立たせる強調構文である。
- It-cleft:It is/was + 強調要素 + that(人ならwho可)+ 残りの部分。主語・目的語・副詞(句)など幅広い要素を強調できる。
- Wh-cleft:What + 主語 + 動詞 + is/was + 強調要素。名詞・名詞節や、do構文を使えば動作そのものも強調できる。
- it と what を混ぜて使わない(It is money what I need. は誤り)。
- 強調したい要素の時制と、it is / it was の時制を正しく一致させる。
- 何でも強調構文にせず、本当に対比・訂正したい情報にのみ使うのがネイティブの自然な感覚である。
- 日本語の「〜のは、…だ」という強調表現と発想が対応していることを意識すると、英作文でも自然に使いこなせるようになる。