この文法項目とは何か、なぜ重要なのか
「受動態(受け身)」というと、多くの日本人学習者は中学・高校で習った "be動詞 + 過去分詞"(例: This book is read by many people.)の基本形しか思い浮かばないかもしれません。しかし実際の英語、特にニュース英語・ビジネス英語・学術論文・TOEIC/TOEFL・英検準1級以上のリーディングでは、完了形の受動態、進行形の受動態、助動詞を含む受動態、知覚動詞・使役動詞の受動態、get受動態、二重目的語の受動態など、より複雑な「上級受動態」が頻繁に登場します。
これらを正確に理解していないと、次のような弊害が出ます。
- 長文読解で「誰が」「何をされたのか」の関係を取り違え、内容を誤読する
- 英作文で時制やニュアンスが不自然になり、減点対象になる
- リスニング・スピーキングで "have been done" のような塊を瞬時に処理できず、聞き取り・発話が遅れる
日本語には英語ほど明確な「態(voice)」の文法カテゴリがなく、「〜される」という受け身表現は日本語では使用頻度も低く、しかも英語ほど時制・相(アスペクト)と厳密に結びついていません。そのため、日本人学習者は「受動態は簡単」と油断しがちですが、時制・相・助動詞と組み合わさった瞬間に急激に難易度が上がるのが上級受動態の特徴です。本記事では、この上級受動態を体系的に、かつ日本人が間違えやすいポイントを踏まえて解説します。
受動態の基本公式(形)を確認する
まず土台となる基本公式を確認します。上級受動態はすべて、この基本公式に「時制・相・助動詞」を追加しただけの応用にすぎません。
| 態 | 公式 |
|---|---|
| 能動態 | 主語 + 動詞(他動詞) + 目的語 |
| 受動態 | 主語(元の目的語) + be動詞 + 過去分詞(+ by 元の主語) |
受動態の絶対公式(核):
be + 過去分詞(p.p.)
上級受動態では、この「be」の部分が時制や助動詞によって姿を変えます。まずはこの一覧表を頭に入れてください。
| 時制・相・助動詞 | 能動態の形 | 受動態の形(be + p.p. の「be」がどう変化するか) |
|---|---|---|
| 現在形 | write | am/is/are + written |
| 過去形 | wrote | was/were + written |
| 現在完了形 | have written | have/has been + written |
| 過去完了形 | had written | had been + written |
| 未来形 (will) | will write | will be + written |
| 未来完了形 | will have written | will have been + written |
| 現在進行形 | am/is/are writing | am/is/are being + written |
| 過去進行形 | was/were writing | was/were being + written |
| 現在完了進行形 | have been writing | (通常は受動態にしない) |
| 助動詞 (can/must/should等) | can write | can be + written |
| 助動詞 + 完了形 | must have written | must have been + written |
| 動名詞 | writing | being + written |
| 不定詞 | to write | to be + written |
この表がすべての土台です。「be動詞を時制に合わせて変化させ、その直後に過去分詞を置く」というルールは一切変わりません。 変わるのは「be」の姿だけです。この原則さえ押さえれば、上級受動態は「暗記」ではなく「組み立て」の作業になります。
主な用法(番号付き・例文付き)
1. 完了形の受動態(have/has/had been + 過去分詞)
現在完了形・過去完了形の受動態は、「〜されてしまった」「〜された状態が続いている」というニュアンスを表します。「have been done」という塊を1つの単位として体に染み込ませることが重要です。
- The report has been submitted already.
(その報告書はすでに提出済みです。) - All the tickets had been sold before we arrived.
(私たちが着いたときには、チケットはすべて売り切れていました。) - Many historical buildings have been damaged by the earthquake.
(多くの歴史的建造物がその地震で被害を受けました。)
学習のポイント: "have been" を見た瞬間に「完了形の受動態が来た」と反射的に判断できるようにしましょう。特にリーディングでは "has been / have been / had been" の直後に過去分詞が続くパターンを、フレーズごと目に焼き付けておくと処理速度が上がります。
2. 進行形の受動態(am/is/are/was/were being + 過去分詞)
「今まさに〜されている最中だ」という一時的な進行中の動作を受動態で表す形です。
- The new bridge is being built near the station.
(新しい橋が駅の近くで建設されているところです。) - Our office was being renovated when I joined the company.
(私が入社した当時、オフィスは改装中でした。)
学習のポイント: "being" は「〜されている最中」という進行中の状態のみに使います。単に「〜される」という一般的な事実や結果を言いたいときに "being" を挟んでしまうのは典型的な誤りです(詳しくは後述の「よくある誤り」参照)。
3. 助動詞を含む受動態(can/must/should/may + be + 過去分詞)
助動詞の直後は必ず動詞の原形が来る、という基本ルールがそのまま生きています。したがって受動態でも「助動詞 + be + 過去分詞」という形を取ります。
- This medicine must be taken after meals.
(この薬は食後に服用しなければなりません。) - The problem can be solved easily.
(その問題は簡単に解決できます。) - Smoking should not be allowed in this area.
(この区域では喫煙が許可されるべきではありません。)
学習のポイント: 助動詞の後ろは常に原形、つまり "be" であって "is" や "was" ではない、という中学英文法の大原則を忘れずに。
4. 助動詞 + 完了形の受動態(must/should/may + have been + 過去分詞)
過去の出来事に対する推量や後悔を表す「助動詞 + have + 過去分詞」の受動態版です。上級英文法・英検準1級〜1級レベルの読解でよく出てきます。
- The window must have been broken by someone last night.
(その窓は昨夜、誰かに割られたに違いありません。) - The letter should have been sent earlier.
(その手紙はもっと早く送られるべきでした。)
学習のポイント: "must have been done" は「〜されたに違いない」(過去の事実に対する強い推量)、"should have been done" は「〜されるべきだったのに(実際はされなかった)」という後悔・非難のニュアンスを持ちます。この2つのニュアンスの違いは、日本語の「〜だったはずだ」「〜すべきだった」に近い感覚で捉えると理解しやすくなります。
5. 知覚動詞・使役動詞の受動態(be + made/seen/heard + to不定詞)
能動態で「原形不定詞」を取っていた使役動詞・知覚動詞は、受動態になると to不定詞(to + 動詞の原形)に変わるという特殊なルールがあります。これは日本人が非常につまずきやすいポイントです。
| 能動態 | 受動態 |
|---|---|
| They made him work overtime. | He was made to work overtime. |
| I saw her enter the room. | She was seen to enter the room. |
- He was made to apologize in front of everyone.
(彼はみんなの前で謝罪させられました。) - The suspect was seen to leave the building around midnight.
(その容疑者は真夜中頃にその建物を出るのを目撃されました。)
学習のポイント: "make" は能動態では目的語の後ろに原形不定詞(動詞の原形)を取りますが、受動態になった瞬間に "to" が復活します。これは「使役動詞 make が受動態になると、通常の他動詞と同じように to不定詞を取る動詞へ性質が変わる」と理解すると覚えやすいです。なお "let" は受動態そのものがほとんど使われず、"be allowed to do" で代用するのが自然です。
6. 二重目的語(give型動詞)の受動態
give, tell, send, show, teach, offer など、目的語を2つ取る動詞(間接目的語+直接目的語)は、どちらの目的語を主語にするかで2通りの受動態が作れます。
- 能動態: The company gave him a bonus.
- 受動態1(人を主語に、より自然): He was given a bonus (by the company).
(彼はボーナスを与えられました。) - 受動態2(物を主語に): A bonus was given to him (by the company).
(ボーナスが彼に与えられました。)
学習のポイント: 英語では「人」を主語にする受動態(He was given ...)の方が圧倒的によく使われます。日本語の「〜が与えられた」という発想からは「物」を主語にしたくなりますが、ネイティブの感覚では「人」を主語に立てる方が自然だと覚えておきましょう。
7. get受動態(get + 過去分詞)
be受動態よりもくだけた口語的な響きを持ち、「予期しない出来事」「変化・被害」を強調するときによく使われます。
- I got caught in the rain on my way home.
(帰り道で雨に降られてしまいました。) - She got promoted last month.
(彼女は先月昇進しました。) - Be careful, or you'll get injured.
(気をつけないと、けがをしますよ。)
学習のポイント: get受動態はフォーマルな文書(論文・契約書・ビジネスレター)にはほとんど使われません。日常会話・カジュアルなメール・SNSでは自然ですが、TOEICのPart 5やアカデミックライティングでは基本的にbe受動態を使う方が無難です。
8. 群動詞(句動詞)の受動態
「動詞 + 前置詞/副詞」がセットで1つの他動詞のように働く句動詞(laugh at, look after, take care of, put off, look up to など)も、そのまとまり全体をひとかたまりとして受動態にします。
- The plan was put off until next week.
(その計画は来週まで延期されました。) - The little boy was looked after by his grandmother.
(その小さな男の子は祖母に世話をされていました。) - He is looked up to by his colleagues.
(彼は同僚たちから尊敬されています。)
学習のポイント: 句動詞を受動態にするとき、前置詞・副詞を勝手に省略してはいけません。"was looked after" の "after" を落として "was looked" としてしまうミスが非常に多いので要注意です。
現在完了形・進行形・単純形の受動態の違い(比較表)
| 形 | 意味・ニュアンス | 例文 |
|---|---|---|
| 単純受動態(is done) | 一般的な事実・習慣的に行われること | This wine is made in France.(このワインはフランスで作られています。) |
| 進行形受動態(is being done) | 今まさに進行中の一時的な動作 | The wine is being made right now.(そのワインは今まさに作られている最中です。) |
| 完了形受動態(has been done) | すでに完了した、または現在まで影響が続く結果 | The wine has been made and is ready to sell.(そのワインはすでに製造済みで、販売準備ができています。) |
このように、日本語ではすべて「作られる/作られている/作られた」と訳し分けるだけで済んでしまいがちですが、英語では be動詞の形そのものが変化してこの違いを担っている点を強く意識してください。
日本人がよく間違えるポイント
| ❌ 誤 | ⭕ 正 | なぜ |
|---|---|---|
| He was made work overtime. | He was made to work overtime. | 使役動詞makeは能動態では原形不定詞を取るが、受動態になるとto不定詞に変わるため。 |
| The room is cleaning now. | The room is being cleaned now. | 「部屋が掃除している」のではなく「掃除されている」なので、受動態(being + p.p.)が必要。能動態の進行形と混同しやすい。 |
| The news has being reported. | The news has been reported. | 完了形の受動態は "have/has been" であり、"being" ではない。"been" と "being" のスペル・発音の混同によるミス。 |
| The letter must sent tomorrow. | The letter must be sent tomorrow. | 助動詞の直後は原形が来るため "be" が必須。日本語の「送られなければならない」から "be" が抜け落ちやすい。 |
| A bonus was given to him by the company was given(構文崩れ)/ He was gave a bonus. | He was given a bonus. | 過去分詞の活用ミス。given (give-gave-given) を "gave" にしてしまう、be動詞の後ろは常に過去分詞という原則の失念。 |
| It is said that he is a genius when he was young.(時制不一致) | It was said that he was a genius. / He is said to have been a genius.(時制のずれを to have been で処理) | 「〜と言われている」の受動態構文で、伝聞内容の時制がずれる場合に "to have + 過去分詞" を使う必要があることを見落とす。日本語の「〜だったと言われている」を直訳すると時制が崩れやすい。 |
| My bag was stolen by (誰か特定できない場合にbyを無理に付ける) | My bag was stolen.(by以下は省略が自然) | 行為者が不明・重要でない場合、byの後ろを言わないのが英語では自然。日本語の「盗まれた」を訳すときに律儀にby someoneを付け足してしまう。 |
| I was interesting in the movie. | I was interested in the movie. | 感情を表す分詞形容詞(interesting/interested型)で、-ing形と-ed形を混同。主語が「感情を引き起こす側」か「感情を持つ側」かで使い分けるが、日本語の「面白い=interesting」という直訳発想から誤りやすい。 |
これらの誤りの多くは、日本語の「〜される」という表現には英語のような厳密な時制・相の区別が存在しないことに起因します。日本語では「掃除されている」も「掃除された」も文脈で判断しますが、英語では be動詞の形自体を変えて明示しなければならない、という発想の転換が必要です。
自然な英語例文でニュアンスをつかむ
- My car is being repaired at the garage right now.
(私の車は今、整備工場で修理されている最中です。) - This song has been played on the radio a lot recently.
(この曲は最近ラジオでよく流れています。) - The contract should have been signed by both parties last week.
(その契約は先週、両者によって署名されているべきでした。) - Visitors are not allowed to be in this area after 9 p.m.
(訪問者はこの区域に午後9時以降いることを許可されていません。) - She was seen to hesitate before answering the question.
(彼女はその質問に答える前にためらうのを目撃されました。) - The old factory is going to be demolished next year.
(その古い工場は来年取り壊される予定です。) - I got asked the same question three times today.
(私は今日、同じ質問を3回も聞かれました。) - The missing documents must have been left on the train.
(その紛失した書類は電車に置き忘れられたに違いありません。)
まとめ:上級受動態で押さえるべき核心ルール
- 受動態の核はどんな時制・助動詞が付いても常に be + 過去分詞 であり、変化するのは「be」の部分だけである。
- 完了形の受動態は have/has/had been + 過去分詞、進行形の受動態は am/is/are/was/were being + 過去分詞 という決まった塊で覚える。
- 助動詞の後ろは必ず原形なので、助動詞を含む受動態は 助動詞 + be + 過去分詞、過去の推量は 助動詞 + have been + 過去分詞 となる。
- 使役動詞・知覚動詞(make, see など)は能動態では原形不定詞を取るが、受動態になるとto不定詞に変わるという特殊ルールに注意する。
- 二重目的語を取る動詞は「人」を主語にした受動態(He was given ...)の方がネイティブにとって自然。
- get受動態はカジュアルな響きで「予期しない変化・被害」を表し、フォーマルな文書ではbe受動態を優先する。
- 句動詞(look after, put off など)を受動態にするときは前置詞・副詞を絶対に省略しない。
- 行為者が不明・不要な場合、by以下は省略するのが英語として自然(日本語の「〜される」を律儀に訳しすぎない)。
- interesting/interested のような感情の分詞形容詞は、主語が「感情を与える側」か「感情を受ける側」かで使い分ける。
これらのルールを一つずつ「be + 過去分詞」という核から派生させて理解すれば、上級受動態は単なる暗記事項ではなく、論理的に組み立てられる文法体系として身につけることができます。